PanasonicGH5Sの静止画低感度暗部ノイズ比較

当スタジオの動画マシンのひとつにPanasonicのGH5Sがあります。この機種は低照度にも強く、素晴らしい動画を生み出してくれるマシンですが、当然ながら静止画も撮影することができます。今まではこの機種で静止画を撮影することなんて考えてもみなかったのですが、以前から「果たしてこの機種の静止画性能はどうなんだろう?」と気になっていたので、今回ちょっとテストしてみました。

まず、個人的に一番気になるのが「低感度の暗部ノイズ」です。よく「高感度ノイズ」に関しては話題に上ることが多いですが、この「低感度の暗部ノイズ」を気にされている方はめったにいないようです。ところが当スタジオでは、すごく重要な要素なのです。

というのも、取材などで建物の外観を撮影するときに、日なたと日陰のコントラスト差が大きな問題になります。とくに冬は困りもので、日なたは直射日光がガンガンあたって光り輝いていますが、日影部分は真っ暗。これを写真で表現しようとすると相当大変なのは写真をちょっとかじった方ならご存じのことでしょう。そう、日なたに露出を合わせれば日影が真っ黒になりますし、日影に露出を合わせれば日なたが飛んで真っ白になってしまいます。こればかりはどうしようもありません。そんなとき我々は最後の手段ということで、日なたが飛ばないように露出を合わせ、あとで暗部をPhotoshopやSilkyPixなどのソフトで大きく持ち上げるのですが、ここで暗部ノイズがひどいカメラだと、持ち上げた日影部分にヘンな色がついたりザラザラになったりして、見苦しくなってしまいます。PanasonicGH5Sでこれをやるとどうなるのでしょうか?

ちなみにGH5Sは秘密兵器「デュアルネイティブISOテクノロジー」とかいうやつで、高感度の場合のノイズを大幅に低減しているそうです。ところがこれの解説などをよく読むと、この秘密テクノロジーはISOが高感度の場合のみ効いてくるもので、低感度の場合には全く関係ないようです。

ただし、GH5Sはセンサーの画素数を通常の半分以下に減らしているため、一画素あたりのダイナミックレンジは理論上は通常の倍近くになり、少なくとも他のマイクロフォーサーズ機よりは低感度暗部ノイズも強くなることが予想されます。

そこでこんな↑シチュエーションで撮影してみました。家の窓から外を撮っています。あたりまえのことですが、窓の外に露出を合わせると、室内は真っ暗になってしまいます。

逆に室内に露出を合わせると、窓の外がこのように↑真っ白になってしまいます。できれば窓の外と室内の両方を見せたいので、これでは困ります。ちなみにこういうカットも店の取材などで必要になるカットなのです。


そこで最初のように、窓の外に階調が残る程度に露出を合わせます。比較対象として、フルサイズセンサー搭載で高感度にも強いといわれているNikonのD750と、APSサイズのセンサーを積んだNikonのD7200でも撮影しました。(GH5Sは最低感度のISO160に合わせ、D750とD7200は最低感度のISO100に合わせ、見た目がほぼ同じになるようにシャッタースピードを決めています。すべてRawで撮影)

それをRaw現像ソフト「SilkyPix」を使って、暗部を思い切り持ち上げるとこうなります↓。(ノイズ低減やシャープネスはいっさいかけていない状態)

なんとか窓の外と室内の両方を表現できました。パッと見では違いがわかりませんが、じつはよく見ると暗部のノイズはかなり差が出ています。ちょっと左上の部分を拡大してみましょう↓。

レンズの違いや露出量、画素数などが違うので厳密な比較とは言えないのですが、フルサイズセンサーのD750やAPSサイズセンサーのD7200とくらべると、GH5Sの低感度暗部ノイズは若干劣っているという結果になりました。センサーの面積比を考えるとAPSセンサーよりはGH5Sの方が優秀だろうと予測していたので、ちょっとガッカリです。もしかするとGH5Sは動画に特化したセンサー特性にしているらしいので(読み出し速度重視?)、静止画の低感度ノイズは若干悪くなるのかもしれませんね。

もちろん、この画像はいっさいノイズ低減処理をかけていませんし、実際の撮影条件にくらべてかなり極端な例なので、普通の方が通常の撮影をする限りでは問題にはならないでしょう。しかし、前述したような明暗差がシビアな仕事などでは、差が出てくる場合もありそうです。

もちろんカメラの性能は暗部ノイズだけではないですし、GH5SはフルサイズやAPSサイズの一眼レフ機とくらべて圧倒的に軽いというメリットがあるので、今後シチュエーションによって静止画機としても活躍してもらおうと思っています。

業務で使うSILKYPIX Developer Studio Pro10レビュー・使用感

当スタジオでは昨年からSILKYPIX Developer Studio Pro10(長い!)を使い始めました。

長年Photoshopを使ってはいましたが、CCになったころからAdobe商法に嫌気がさし、意地で買い切り時代のCS5を使い続けていたのです。しかし気がつけばもう10年、そろそろ新しいのを使ってみたくなりました。

AdobeCCシリーズのいちばんの問題点は、解約したときにAdobe独自形式のファイルが開けなくなることです。将来、Adobeよりももっと素晴らしいソフトが現れて乗り換えたくても、過去のファイルがある限りAdobeとも契約し続けなければなりません。それに今回のコロナ禍のようにしばらく仕事がなくなって一時休止しようとしても簡単ではない。なにより、海外企業に業界標準を握られて、いいように搾取されているという点が気に入りません。ライバルがいないため、Adobeは世界中でやりたい放題です。なんとか日本の会社も応援して、Adobeの横暴を止めるためにもがんばってもらわないと。。。

と、いうわけで国産ソフトのSILKYPIX Developer Studio Pro10です。じつはSILKYPIXはだいぶ昔(10年ぐらい前?)に体験版を試して、とてもじゃないが自分の仕事では使えないと却下したことがあったんです。でもあれからPCパワーも格段に進歩していますし、バージョンアップでだいぶ使えるようになっているはず、との目論見でインストールしてみました。

まず結論から言うと「以前に比べてかなり使えるようになったな」というのが感想です。起動時のサムネイルファイルの読み込みなどはまだまだ遅いですが、その他の動作はまあ大丈夫といったところ。PhotoshopやLightroomで使われているパラメーターもひととおりそろっているようで、自分が使う機能についてはほぼ過不足ありません。画面やツールの配置なども自分好みにカスタマイズできました。当スタジオではツインモニターで上記のような配置にしていますが、本当はもうちょっと多くのパラメータを一画面内に配置したいところ。


SILKYPIXのよかった点

1,トリミングしやすい!

ときにはL判や六切りなどプリント前提でデータを作成しなければならないこともあります。カメラ画像の縦横比率とプリントの縦横比率は違うので、これが結構面倒くさいのは写真館のお仕事をされている方はご存じでしょう。PhotoshopCS5(CameraRaw)時代のトリミングは、いったん画像を開かないとできませんでした(最新バージョンのことはわかりませんが)。そしてトリミング比率は手動設定のみで、たとえば「六切プリント用にトリミングしたい」なんてときには自分で六つ切りのPixel比率を調べて、その通りに一枚一枚自分で設定する必要がありました。それがSILKYPIXでは画像をいちいち開かなくてもプレビュー表示上でトリミングできますし、比率も「L,2L判」「六切」「W六切」など、普段使いそうな標準的な物はすべてプリセットに入っているためかなり便利です。おかげでトリミング作業は今までの半分以下の時間で済むようになりました。これは自分的には大ヒットでした。

2、画質はいい

画質はいいと思います。とくに気に入っているのは高感度ノイズの低減パラメーター。Photoshopよりも良い感じでノイズ消してくれます。高感度ノイズの量はISO値によって異なるので、Photoshopのときは「このカメラでISO1600だから、これぐらいの値」などのように、カメラと感度から経験則で自分で決めて、いちいち感度ごとに設定してたんですが、SILKYPIXの場合は、ISO感度を自動的に読み取ってノイズ低減量を決めてくれるので、自分で設定する必要がなくなりました。シャープネスはデフォルトではちょっとかかりすぎなので、自分で少し減らしています。ただ、HDRはあまりかけると、暗部と明部の境目が不自然で子供だましみたいな絵になってしまうので、その辺のアルゴリズムをもうちょっと進化させて欲しいところです。

3,デジタルシフトは使いやすい

使っていたPhotoshop(CameraRaw)の場合は、大きくシフトさせると画面の一部が欠けて(当然なのですが)、あとで自分でトリミングし直さないとダメだったんですが、SILKYPIXの場合は、勝手にトリミングしてくれるので作業が早いです。ただ、その分動きに制限があるので、好みかもしれません。シフトの状況に寄っては、横で撮った写真をトリミングして縦に使う場合もまれにあるので、そういう場合はちょっと手間が増えてしまいます。

4、収差補正の対応レンズが多い!

レンズの収差補正もよく使う機能のひとつですが、かなり古いマイナーなレンズまでプロファイルが用意されていて感動しました(外部のデータベースを利用しているそうですが)。Photoshopだとプロファイルがないレンズもたくさんあったのです。

5、サポートの反応が早い!

じつは先日SILKYPIXの不具合を発見したんですが、サポートに報告したところすぐに返事をくれ、一週間ぐらいで修正プログラムを配布してくれました。さすが日本の会社! もちろんすべての不具合に完璧に対応するのは困難だと思いますが、こういう姿勢は応援したくなります。新発売のカメラへの対応も早いですし、アップデートもかなり頻繁に行われています。Adobeだと絶対にこうはいきませんからね。

6、プリセットが豊富

仕事ではあまり使わないのですが、SILKYPIXは各現像パラメーターに対して割と豊富なプリセットが用意されています。写真全体の雰囲気を決める「テイスト」などは30種類ぐらいありますし、ホワイトバランスだけでも20種類ぐらいあります。そこから自分の好みの画質や色を選択するだけで決められるので、5600Kとかそういう数字がよくわからない初心者には親切ですね。さらに地味に便利なのが、それらパラメーターを選ぶときに、普通なら選択して「決定」かなんかを押さなくては色が反映されませんが、SILKYPIXは候補の一覧をマウスでなぞっている段階でプレビューに色がサッと反映されるので、素早く色を決められます。いちいち選択して、決定して、それが反映されるのを待って、、、だと時間が倍かかりますからね。ただそのため、作業中にどこかで間違ってマウスのホイールをクルクルやると、想定外のパラメーターがクルクル変更してしまってあせる、、、ということもよく起こります(この辺はカスタマイズでなんとかなるのかもしれませんが)。


SILKYPIXイマイチな点

1,作業待ちの問題

当スタジオの場合、イベントなどで1000枚以上の写真を一気に現像することも少なくないので、起動して作業するまでに最初かなり待たされます。これはPhotoshopもそうなので仕方ないことだとは思いますが、SILKYPIXで困っているのは、その最初の読み込み待ちの間、いっさいの作業を受け付けなくなること。たとえばあるフォルダを選択して「やっぱり他のフォルダにしよう」と変更しようと思っても、時はすでに遅し。SILKYPIXは延々と最初に選んだフォルダの準備を始めるために、他の作業ができません。ちなみにこの問題は「機能設定」→「パフォーマンス」のところに「サムネイル生成の優先度」という項目があり、これを「優先度高(サムネイル表示速度を重視する)」にすれば早くなるらしいのですが、自分の環境では「気持ち早くなったかも?」ぐらいで劇的に変わることはありませんでした。(ちなみに当スタジオでは8コアCPU、メモリ32G、作業ディスクもSSDと、処理速度には相当こだわっています)この問題を解決するためにか、「セレクト」と「調整」を別のセクションに分けているらしいのですが、面倒くさくて「調整」しか使っていません。

2、UIのわかりにくさとパラメーターになじめない

Photoshopを長年使っていたせいもあるでしょうが、とにかくなんだか使いにくい。いったいどこを開いたら自分のやりたいことができるのかすぐにわかりません。その点Adobeなどは、マニュアルを読まなくてもなんとなくで使えてしまいます。そして、SILKYPIXのパラメーターの呼び名とカテゴリー区分けには今でも違和感を感じます。たとえばコントラスト設定などは「調子」という項目の中に入っているんですが、すぐに見つけることができませんでした。しかも「コントラスト」と「コントラスト中心」というものがあり、いったい何か違うのかよくわかりません(マニュアル読めばいいんでしょうが)。また、中間部分の明るさは「ガンマ」と名付けられているんですが、自分はたまたまビデオ業界にもいたのでガンマの概念を知っていましたが、一般の人に「ガンマ」といってもピンとこないように思います。

そしてこれらカテゴリー分けされたパラメーターが、いちいちそこを開かないと設定できないのがちょっと不便です。たとえばホワイトバランスを調整するためにホワイトバランスの項目を開いて、次にシャープネスはシャープネスの項目開いて、、、といちいち面倒くさい。こちらとしては、パラメーターをパパッといじって次のカットに移りたいので、ずらっと並べた全部のパラメーターを一カ所で調整できるといいんですが、根本的にそういう構造になっていません。基本的には画像を一枚だけ丁寧に現像することを前提として設計されているみたいで、仕事で何百枚も大量に処理することはあまり想定されてないのでは?と感じます。画面表示なども色々カスタマイズできるので、作業しやすいようにセッティングを工夫してみたんですが、どうやっても収まりきらないパラメーターが出てしまいます。、、、まあこの辺はもうちょっとセッティングを工夫してみたいと思います。

3、PSDや他のファイルを扱えない

いくらSILKYPIXにしたとはいえ、複雑な修正などでは相変わらずPhotoshopも併用しています。SilkypixからPhotoshopにデータを転送することは簡単にできるのですが、そのあと困るのがPhotoshopで書き出したPSDファイルをSILKYPIXで読めないこと。たとえ同じフォルダにPSDファイルがあったとしても、SILKYPIXからは存在さえもわかりません。tiff形式で保存すれば読めるのですが、レイヤーも使えないしファイルサイズも大きくなるしで、ファイル管理がしにくいのでとても困っています。権利の関係で開けないのは仕方ないとしても、少なくとも存在ぐらいは可視化されてコピーや移動ぐらいはできるようにして欲しいものです。(PSDだけでなく動画など画像以外のファイルもSILKYPIXからは存在がわかりません。これも困っています!)

4、挙動が怪しいときも

具体的にどのような操作をしたときかわからないんですが、たまに予期しない動きをしたり、一生懸命設定した作業レイアウトが元に戻ってしまったり、反応がなくなって再起動が必要になったりりと、ソフトウエアとしての安定性が若干怪しいことがあります。そんなに頻繁ではないですが、たまにイラッとします。でもこれはAMDのRyzenという比較的新しいフォーマットのCPUを積んだPCで作業しているせいかもしれません。Intelだとまた違うのかも。

と、まあ色々書いてしまいましたが、とりあえずPhotoshop、Lightroomの代替としては、なんとか使えるソフトだと思ったので購入を決めました。RawだけでなくJPG画像の調整もできるので、趣味でJPGしか扱わない人にも便利だと思います。できればこの国産ソフトをもっと応援して、Adobeの横暴を止めて欲しいですね。

ちなみに、最近注目されているAffinity Photoも試してみましたが、さすがにまだ業務ではちょっと厳しいなという結論でした。でも初心者の方で、少ない写真を丁寧にRaw現像するだけなら意外と使えそうです。打倒Adobeのためにも、こういうソフトにもがんばって欲しいですね。(PSDも編集できるようです)